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すべては言葉の問題〜文字式の表し方より〜
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    中1ショックとはよく言ったもので、うちの中1生も新しい勉強の数々に悪戦苦闘している者が多い。細かく事柄を上げたら色々あるが、そもそもなぜ中1になると勉強に苦労することがあるのだろう。定期テストの実施だとか教科の専門性(難易度)が上がるとか、また部活も含めた生活全般の忙しさだとか、勉強の内外にわたっての要因は色々思い浮かぶ。

     

     

    もう少し生徒一人ひとりに焦点をあてて注視してみると、やはりというべきか1つの傾向が見えてくる。ここで先日教室で見られた1つの例から考えてみたい。

     

     

    数学の「文字式の表し方」。ここは次の「文字式での表し方」への導入にあたり、×、÷の省略等について学ぶところだ。まあ小さい単元と言えば小さい。サッと終わらせて次に行きたいところではある。ただ、結構重要な問題も隠れていて、例えば次のような問題は必ずつまずく生徒が出てくる。

     

     

    5×(x+y)÷2 (文字式の表し方に従って書きなさい)

     

     

    これをやる前にルールとして「×は省略(数字→文字の順にする)」「÷は分数にする」「+−は省略できない(いじれない!)」「( )内の式は1つのまとまりと見る」ということを例題付きで解説してある。ここでの間違えパターンはいくつかあるが、例えば次のようなものをよく見かける。

     

     

    5×(x+y)÷2
    =5(xy)/2

     

     

    実はこの問題は全く手が付かない生徒もいて、そこには「項」の考え方についてまだ扱っていないという問題がある。(x+y)を1つのまとまりと見て×の省略はできても、その結果の5(x+y)をも1つのまとまり(つまり「項」)として見ることができず、÷2の分数化をどのようにしてよいのか分かず、手が止まってしまうのだ。これは仕方がないと言えば仕方がない。ただこの問題はここで取り上げたいことがらとは別なのでちょっと保留にしたい。私は机間巡視でこういう生徒がいたら、項という言葉は使わずに「5(x+y)は1つの数字や文字として考える」的な助言をするようにしている。

     

     

    ここで問題にしたいのは、「×の省略」と「÷は分数」はできるが、「×の省略」に「引きずられる」のか、+まで省略してしまっている点だ(間違いのパターンはいくつかあるが、ここでは+の省略を問題にしたい)。毎年必ず数人がこういう間違いをしてしまう。そしてそれは例外なく勉強が苦手な生徒たちだ。なぜこのようなことが起こるのだろう。

     

     

    一般的には、同時に行う処理が複数あると混乱してできなくなるという理由が考えられる。勉強が苦手な生徒、理解が中々進まない生徒というのはこの「複数同時処理」が苦手な場合が多いというのはよく言われるところだ。

     

     

    ではなぜ複数同時処理が苦手なのか。なぜ複数同時処理をしていると、関係ないことまで(ここでは+の省略)やってしまうのか。私はそれは「言葉が未熟だから」と考えている。「言葉を読む・聴く(インプット)」→「言葉を頭で理解する(脳内反復的イメージ)」→「言葉で理解した内容を作業として表現する(アウトプット)」という一連の回路が非常に未熟であるという点に、こうした問題は起因しているのではないか。冒頭で述べた「中学生になると勉強で苦労する」の中には、学習の抽象度、一般度が上がって言語(概念)による説明と理解が多くなった中学の勉強に、言葉が未熟な生徒はついていけないということがあると考えている。

     

     

    「言葉が未熟」な生徒の特徴の1つとして、「何度も聞き直す」というのがある。1対1で何か指示をするという直接のコミュニケーション、持ち物や課題についての単純な指示。それでもこちらが話を終えると「えーと、もう1回お願いします」と言ったりする。また、こちらが間違った問題について助言を与えたりしている時、まだ説明が終わっていないのに「ありがとうございました」と話を切ってしまうこともある。

     

     

    これはこちらが話している内容が「ただの音」としてしか伝わっていないからではないか。ただの音ならインプットして瞬時に頭で理解する作業に転換されないのは当然で、もう1度ゼロから入れ直さないと理解へと進まない。1回目は音として脳を起動させるだけの信号でしかなく、2回目でやっと理解への回路が開くと言ったら言い過ぎか。これは読むでも同様だ。目で読むというインプット作業から頭の中への理解へと瞬時に転換されないような間違えはよくある。とんでもない読み違いをしている生徒に「今ここでこの部分(読み違えている箇所)を音読して」と言って読ませると、「あっ!」と気づいたりする。

     

     

    こういう生徒からはたとえばこんな質問もよく出る。理科の教科書に「両生類は、幼生の時はえらで、成長してからはひふと肺で呼吸します」と書いてある。それを持ってきて、「先生、これは『両生類は幼生の時はえら、成長してからひふと肺で呼吸する』ってことですか?」的な質問するのだ。教科書やこちらが口頭で述べたことをほぼそのまま反復して「○○ってことですか?」と尋ねるのは、やはり1回目の読みがすぐに理解のチャンネルにつながっていないことの表れかもしれない(「幼生」や「えら」の意味を確認したいわけではないことは、確認済み笑)。

     

     

    文字式のルールは当然言葉で説明される。それがいくつもある。のっけからハードルが高い。例題と合わせてもすぐには得心できない。まだインプットだけの状態(頭が起動しただけの状態)なのだ。彼等が繰り返しのインプットで脳内反復の理解に進む前に、教室では問題演習に移る(特別早く進んでいるわけではない)。アウトプットできる状態になっていないのに問題に取り組めば、間違えるのが当たり前。「×?の省略?」程度の理解(頭の中では?がつく程度の雑な理解しかできていないイメージ)なら、×に表記の似た+も省略してしまうのではないかというのが、雑駁だが私が考えた間違いの経路だ。

     

     

    文字式の表し方程度のルールであれば、何度か練習すると習熟してできるようになる。繰り返す中で先に挙げたインプット、脳内反復による理解、アウトプットが整ってくるのだろう。これを「頑張ってできるようになった」はちょっとうまくない。本人の抱えている問題にはなんら働きかけられていないからだ。こういう生徒の「聴く」から、しっかりと改善を試みるのが指導者の役目だと思う。

     

     

    言葉を鍛えるのは生徒と触れている時間が長い御家庭が一番だが、私はこうした言葉が弱い生徒には、「聞き直しを禁じる」「説明したことをすぐに口頭で説明させる」「私に何かを伝えるときは、できるだけ端的な説明で伝えるように努力させる。何を言いたいのかこちらが理解できても、説明が稚拙なら何度でもやり直させる」などのコミュニケーションで改善を図っている。言葉はすべての学習の基本、土台なのだ。ここが向上しなければ学習効果は上がらないし、逆に言えば言葉がうまく使えるようになれば成績はどんどん伸びるはずなのである。

     

     

     

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